大判例

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東京地方裁判所 昭和43年(ワ)7907号 判決 1969年7月19日

原告 江間忠木材株式会社

被告 国

訴訟代理人 森脇郁美 外一名

主文

被告は原告に対し金六三万六〇〇〇円及びこれに対する昭和四三年八月四日から支払ずみとなるまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決ならびに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として次のとおり述べた。

「一、訴外明和産業株式会社(以下明和産業という)は訴外村瀬利一より別紙物件目録記載の土地につき債権極度額二五〇〇万円の根抵当権の設定を受け、浦和地方法務局川口出張所昭和三八年八月二三日受付第二〇三七六号をもつて根抵当権設定登記を経由し、また訴外奥川商工株式会社(以下奥川商工という)より別紙物件目録記載の建物及び附属機械設備につき債権極度額五〇〇万円の根抵当権の設定を受け、同出張所昭和三八年八月二六日受付第二〇六〇九号をもつて根抵当権設定登記を経由していたところ(債務者はいずれも奥川商工)、明和産業は浦和地方裁判所に対し右各物件につき根抵当権の実行のため競売の申立をし(右土地につき昭和三九年(ケ)第五九号、右建物等につき同年(ケ)第七二号)、同裁判所は右各物件につきそれぞれ競売開始決定をした上一括競売に付し、右物件は昭和四〇年六月一六日代金九七九万三〇〇〇円で競落され、その後右代金は納入された。

二、これより先訴外株式会社埼玉銀行(以下埼玉銀行という)は前記村瀬利一及び奥川商工より前記各物件につき債権極度額二〇〇〇万円の根抵当権の設定を受け、前記出張所昭和三八年一月一八日受付第七三〇号をもつて根抵当権設定登記を経由していたが(債務者は前同様いずれも奥川商工)、原告は同年一一月二一日埼玉銀行より右根抵当権を奥川商工に対する債権と共に譲受け、前記出張所昭和三八年一一月二六日受付第二九二八三号をもつてその移転登記を了していた。

三、そして浦和地方裁判所は、原告及び明和産業の債権届出書に基き、

(1)  競売費用一五万五〇〇九円

(2)  原告の奥川商工に対する約束手形金元本債権三九七万二三二二円

(3)  同遅延損害金債権五六六万五六六九円

(4)  明和産業に対する配当なし

との配当表を作成し、昭和四〇年八月二五日午後一時の配当期日に右配当を実施しようとしたところ、明和産業は原告の債権に対し異議を申立て原告との間に異議が完結しなかつた。

四、そしてこれより先昭和四〇年六月二〇日頃明和産業は原告を被告として浦和地方裁判所に配当異議の訴を提起したが、昭和四一年一二月二一日敗訴の判決を受け、更に東京高等裁判所に控訴を申立てたが、昭和四三年五月二九日控訴棄却の判決が言渡され、同年六月一七日確定した。

五、そこで原告は昭和四三年六月二七日浦和地方裁判所に出頭し、原告に配当さるべき合計九六三万七九九一円とこれに対する供託利息金を受領しようとしたところ、同裁判所は右金員を供託せずにそのまま保管していたことが判明した。

六、ところで競売法による競売手続についてはその性質の許す限り強制執行手続に関する民事訴訟法の規定を準用すべきものであるから、競売裁判所は異議のある債権の配当額は民事訴訟法第六三〇条第三項の規定に従い供託すべきものである。

七、従つて、浦和地方裁判所としては明和産業から異議の申立てられた原告に対する配当額九六三万七九九一円はこれを供託すべきであつたにもかかわらず、供託しなかつたのであるから、これにより原告は本来受領しうべき右金員に対する供託規則第三三条所定の年二分四厘の割合による利息を受領することができず、右利息に相当する損害を蒙つたものである。

そして、浦和地方裁判所は、昭和四〇年八月二五日の配当期日に異議が完結しなかつたのであるから、遅滞なく手続をとれば同月中に供託しえたはずであり、また前記配当異議訴訟で明和産業敗訴の判決が確定し原告が配当金を受領すべく裁判所に出頭したのが昭和四三年六月中であるから、原告が得べかりし利息は、供託規則第三三条第一、二項の規定に従つて計算すると、九六三万七〇〇〇円に対する昭和四〇年九月一日から昭和四三年五月三一日まで年二分四厘の割合による六三万六〇〇〇円である。

八、よつて被告に対し、右六三万六〇〇〇円及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和四三年八月四日から支払ずみとたるまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。」

被告指定代理人は「原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、原告勝訴の判決がなされかつ仮執行の宣言がなされた場合においては仮執行免脱の宣言を求めると述べ、答弁として次のとおり述べた。

「一、原告主張の請求原因一ないし四の事実は認める。

二、同五の事実中、浦和地方裁判所が原告に対する配当額九六三万七九九一円を供託せずに保管していたことは認めるが、その他の事実は不知。

三、同六及び七の主張は争う。

四、(一)、競売法による競売手続には民事訴訟法第六三〇条第三項の規定の準用はなく、配当につき異議ある場合裁判所は異議ある債権の配当額を裁判所の事件に関する保管金等の取扱に関する規定(昭和三七年九月一〇日最高裁判所規定第三号)に従つて保管しておけば十分なのであつて、これを供託する義務はなく、裁判所が自ら保管するか供託するかはその裁量にまかされているものと解するのが相当である。元来競売法による競売手続に関しては、競売法中に特別の規定がなく、またその性質の許す限りは民事訴訟法の規定を準用すべきであるが、配当に関する規定の準用については大審院は消極的な態度を示してきた。その代表的なものとして昭和一六年一二月五日判決(民集二〇巻二四号一四四九頁)が挙げられる。もつとも、最高裁判所は昭和三一年一一月三〇日判決(民集一〇巻一一号一四九五頁)において、抵当権の実行による不動産競売手続において、配当表が作成された場合、異議のある抵当権者は配当表に対する異議の訴訟を提起することができる旨の判断を示したが、右判例は配当に関する民事訴訟法の規定を競売法による競売手続に全面的に準用すべきであるとする趣旨には解せられず、大審院の判例が右最高裁判所の判例によつて変更されたものとみることはできない。従つて浦和地方裁判所が原告に対する配当額を供託せずに自ら保管していたからといつて、右の措置に違法はない。

(二)、かりに競売法による競売手続にも民事訴訟法第六三〇条第三項の規定の準用があるとするのが正しい解釈であるとしても、現在の実務はその準用はないとの解釈に従つて運用されているから、浦和地方裁判所が供託をしなかつたことについては過失がない。」

証拠として、被告指定代理人は<証拠省略>を提出し、原告訴訟代理人は右<証拠省略>の成立を認めた。

理由

一、請求原因一ないし四の事実及び同五の事実中浦和地方裁判所が原告に対する配当額九六三万七九九一円を供託せずに保管していたことは当事者間に争がない。

二、ところで、抵当権実行のためにする不動産競売手続において配当異議訴訟が提起された場合に、異議ある債権に対する配当額は民事訴訟法第六三〇条の規定の準用により供託すべきものであるかどうかについて考えてみるに、抵当権の実行による不動産競売手続において配当表が作成された場合、異議のある抵当権者は配当表に対する異議の訴訟を提起しうることは最高裁判所の判例(前記昭和三一年一一月三〇日判決)とするところであり、もつとも右判例は配当異議訴訟と配当完了後の不当利得返還訴訟との両立を認めるのであり、また異議訴訟が提起された場合の配当手続の点には直接触れていないけれども、いやしくも右のような場合に配当異議訴訟の提起を認める以上は、裁判所は民事訴訟法第六九七条第六三三条の規定により配当を実施すべからざるものと解すべきことは当然であり(右規定の準用がないとする被告引用の昭和一六年一二月五日大審院判決は前記最高裁判所の判例により実質的に変更された者と解する)、そしてその場合には同法第六九七条第六三〇条第三項の規定の準用あるものと解すべきことも亦多言を要しないから、抵当権の実行による不動産競売手続において、少くとも配当表が作成されかつ抵当権者より配当表に対する異議の訴訟が提起された場合には、裁判所は異議ある債権の配当額はこれを供託すべき義務あるものと解するのが相当である。これに反する被告の見解は採用し難い。

従つて浦和地方裁判所が原告に対する配当額を供託せずに保管していたことは違法の処置であるといわなければならない。

三、また、この点に関する全国裁判所の取扱は審かでないが、少くともかなりの数の裁判所においてかかる場合に異議ある債権の配当額を供託することなく単に保管していることは<証拠省略>によつてこれを窺うことができるけれども、既に前記のようにこれを供託すべきものと解すべき以上は、実際上の取扱如何にかかわらず、裁判所に過失が存しないと解することはできない。

四、ところで明和産業は昭和四〇年八月二五日の配当期日に先だち同年六月中配当異議の訴訟を提起したのであるから、浦和地方裁判所は遅滞なく手続をとれば昭和四〇年八月中に異議ある債権の配当額九六三万七九九一円を供託することができたものと考えられ(右期間中に供託することができない事情が存したことを認める証拠はない)、そして右配当異議訴訟において明和産業の敗訴判決が確定したのが昭和四三年六月一七日であるから、原告は浦和地方裁判所が右配当額を供託しなかつたことによつて、供託規則第三三条の規定により右配当額より一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた九六三万七〇〇〇円に対する昭和四〇年九月一日から昭和四三年五月三一日まで年二分四厘の割合による利息六三万六〇四二円相当の得べかりし利益を喪失したものということができる。

五、よつて被告に対し右金額の範囲内である六三万六〇〇〇円の損害金及びこれに対する訴状送達の翌日であること記録上明らかな昭和四三年八月四日から支払ずみとなるまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の請求は正当であるからこれを認容し、訴訟費用は民事訴訟法第八九条により被告に負担させるが、仮執行の宣言はこれを付する必要なきものと認めてその申立を却下することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 今村三郎)

物件目録

(土地)川口市元郷町一丁目一八六三番四

一、宅地 二一六坪三二

同所一八六六番四

一、宅地   二坪四〇

同所二一四二番一

一、宅地  八一坪二四

同所同番二

一、宅地  五五坪二八

同所二一四三番二

一、宅地   九坪二六

同所二一四四番一

一、宅地   一坪

(建物等)川口市元郷町一丁目一八六三番四、二一四二番一、二一四二番二、

家屋番号一八六三番四の一

一、木造亜鉛メッキ鋼板葺二階建製材工場 一棟

一階一四三坪、二階四坪

附属建物

一、木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建事務所  一棟

建坪 一三坪

一、木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建便所   一棟

建坪 一坪五〇

附属機械設備

ハンドソー五〇吋(四〇馬力)    一台

テーブルハンドソー四〇吋(一五馬力)一台

テーブルハンドソー三四吋(二〇馬力)一台

チエンソー(五馬力)        一台

チエンソー(七・五馬力)      一台

日立機               一式

横切機(三馬力)          一台

転回機(三馬力)          一台

全電動オイスト(五屯)       一台

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